秋田県 乳頭温泉「妙乃湯」(たえのゆ)
女将の佐藤京子さんにうかがった忘れられないお話です。
いまから二十数年前、大寒のある日のことでした。
「助けてください」と突然、玄関口に女の人が現れました。
歳のころは40~50。
腰まで白い雪に覆われ、顔面蒼白の状態で凍えています。
ただ事ではないと察した女将さんは、
すぐに館内に迎え入れ、温泉に連れていきました。
ここまでは考え得ることですが、
なんと女将さんは自分も服を脱いで湯船に浸かり、
芯から冷え切った体を抱き締めてあげたというのです。
*写真はHPから
女性は、命を絶とうと深い雪の中をさまよったけれど、
どうしても死にきれなかったとつぶやきました。
何があったのか、女将さんはそれ以上のことは問いませんでした。
そのまま部屋に泊め、女性は後日、
迎えに来た娘さんと帰っていきました。
何日か経って、女性から大きなお礼の品が届き、
これが3年続いて、やりとりは途絶えました。
この数年前に大病を患った女将さんは、
それまでは東京の建設会社で猛烈に働かれていたそうですが、
療養を兼ねて祖父が創業した妙乃湯を継がれました。
「生きているのではなく生かされていることに気づいた」
とおっしゃいます。
そうしたところに現れた、一度は人生を捨てた女性は、
知らない土地で警戒されるばかりか、
見ず知らずの宿の女将に、
肌と肌とで抱きしめてもらうことができました。
絶望の淵で与えられた優しさは、どんなにか暖かかったでしょう。
女性が今はどうされているか知る由もありませんが、
その後、たとえどんな人生だったとしても、
女将さんのぬくもりは、小さなともしびになったのではないかな…
そんなことに思いを馳せました。
経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子でした。
※妙の湯さんの話は、シリーズ『女将さんのこころ』
の三巻目(紫の本)でもご紹介しています。
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