こんにちは。ジャーナリストの瀬戸川礼子です。
2011/02/10
きのう訪問した「柊家」(ひいらぎや)さんをご紹介します。
1818年に創業した歴史ある宿で、
川端康成、三島由紀夫、チャールズ・チャプリン、
国内外のVIPをもてなしてこられました。
玄関の上がりかまちには、
「来者如帰」という言葉が額に掲げられています。
「来る者、帰るがごとし」
…すぐ帰らはる、という意味ではあらしまへん。
いらしたお客さまに、まるで我が家に帰ってきたごとく
くつろいでいただきたい、という思いなのです。
明治~大正~昭和の風情が残る旧館の客室。
大正ガラス越しに、庭の緑がやさしく映ります。
古き善き時代の建物は風情がありますが、
実際に滞在すると不便なことも多いのです。
でも柊家さんは修繕にも力を入れていらっしゃいます。
ただし、ガラリと変えることはありません。
冬が突然、春にならないのと同じように、
夜が突然、朝にならないのと同じように、
お客さまが気づかぬうちに、さりげなく改善するのです。
奥の深いプロの仕事だなと、印象に残りました。
5年前に新館を併設し、新しい空間も楽しめます(7室)
勉強不足で私はお恥ずかしい限りだったのですが、
柊家さんには田口八重さんという仲居さんがいらっしゃいました。
1937年、28歳で仲居として働きはじめ、
69年に、接客業の中で初めて、黄綬褒章を受章されました。
接客業で初めての受賞者は、
大企業の経営者でも、女将さんでもなくて、
小学校しか出ていない仲居さんだったのです。
ドラマですね。
八重さんは晩年、仲居人生60年の節目に
著書『おこしやす』を出されました。
女将の西村明美さんにいただき、帰りの新幹線で一気に読みました。
「ここまでやるんだ」、「なんて素直な人なんだろう」。感服でした。
先日私は、市ヶ谷自衛隊ツアーに行って
三島由紀夫が切腹した会館を見学しましたが、
八重さんは、彼が最後の家族旅行で
柊家に滞在したときの様子を
14ページに渡って書かれていらっしゃいます。
宿を後にする日、
いつもはさっさと行動する人が、
この日ばかりは、車に乗り込む前、何度も玄関を振り返ったそうです。
「お八重さん、長生きしてください。
みなさん、いつも大事にしてくれて本当にありがとう」
91歳まで望んで働き続けた八重さん。
多くのお客さまと心を通わせられた様子が生き生きと描かれています。
気難しい方も、何年もかけて次第に心の氷を溶かしていかれました。
いまごろは天国で語り合われているのかもしれません。
どれだけ人の心に寄り添えたか。
それが宿の真価なのかもしれません。
5代目女将の西村時枝さん、6代目女将の明美さんと玄関で。
素晴らしい時間をありがとうございます!
明美さんは、京都のJTB協定旅館の女将さんが集う
「みやこ女将の会」の会長も兼務されていらっしゃいます。
またお会いできますように♪
私、瀬戸川礼子
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柊家の西村明美さんも「その一」でご紹介している本。
『おもてなしの原点 女将さんのこころ』 その一、その二
全国55人の旅館の女将さんが、4ページずつ顔写真付きで登場。
人生について、おもてなしについて、教育、地域活性について。
普段はあまり語られない心の内を書いています。