きれいごとでいこう!

経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子です。いい会社のいい話から私的なつぶやきまで、公私をつづります。

アリストテレスと歯数の旅 ~女の歯は男より少ない?~



『ティール組織』(フレデリック・ラルー著)の序文に、

こんな逸話が書かれています。

古代では「女の歯は男より少ない」と考えられていたと。

しかもそう言ったのは、

かの哲学者・アリストテレス(紀元前384~322年)。

以来、それは信じ続けられ、

2000年以上も過ぎた後に、とうとう誰かが思い付いた。

「数えてみようじゃないか!」


…ほんまかいな。

いえ、著者のラルーさんに対してではないですよ、

アリストテレスと古代の出来事に対してそう思うわけです。

「歯」だけに、「は?」とか言っている場合ではない(笑)

人間の歯は、男女同じく28本(親知らずで +1~4本)。

口の中を覗くだけで簡単に分かるのに、

なにゆえこんな思い込みが生まれ、

なにゆえ2000年もの間、信じられてきたのか?

アリストテレスは誰よりも賢い人じゃなかったの?

ちなみにラルーさんは、

「私たちだって、昔の人と全く同じように

自分たちの思考にとらわれてしまっているかもしれない」 とし、

ここから新しい在り方・ティール組織への変遷が記されていきます。

とても面白いしお勧めの本です。

確かに、誰にでも、私にも起こり得る「思考の固定化」

それを象徴する「歯数の罠」(と命名してみた)を

私はもっと知りたくなりました。

検索したところ、どうやらこの本に書いてありそう。

『脳の中の幽霊』( V.Sラマチャンドラン著、1998年刊)。

タイトルからして魅力的です。


著者は、神経科学者でカリフォルニア大学サンディエゴ校の

脳認知センター教授兼所長(当時)です。

絶版なので中古を購入。

見開き4段で文字がびっしり。

これを321ページ読破しましたがーー、

肝心なアリストテレスの歯数の話は、

『ティール組織』と同じ内容が書かれているだけでした。

でも、

「アリストテレスは自然現象の鋭い観察者だったが、

実験をする、推測してそれを統計的に検証するという

発想はもっていなかった」

という著者の考えを得られました。

この本には自宅で出来る脳の実験も豊富に紹介されていて

とても面白かったです。

ただ、私が知りたいのは「思い込んでしまった原因」なので、

再度、それを探るための書籍を検索しました。

すると、

アリストテレスは『動物誌』を書いていることが分かりました。

馬の歯はメスよりオスのほうが多いそうだから(これはホント)、

この本にヒントがありそう。

ということで、

上下巻の分厚い文庫本『動物誌』を図書館で借りました。


「始めのほうに出てきてくれ~」と祈りながら読み始めると、

P72に早々と出てきました。

「第2巻 第3章 胎生四足類の外部(ウマ等の歯)」

「(中略)雄の方が雌より歯が多いことは、

ヒトでもヒツジでもヤギでもブタでも同じであるが、

他の動物ではまだ調べられていない。(略)」

あった、あった。↑ この文章です。

これだけしか書かれていませんが、原典を見つけました。

「雄の方が雌より歯が多いことは、

ヒトでもヒツジでもヤギでもブタでも同じであるが、

他の動物ではまだ調べられていない」って…、

…いやいや、「ヒト」すら調べていないですけど。


これだけでは納得がいかんので、

そのまま『動物誌』を読み進めましたが、

すべてがあんな感じで、淡々と記され、

「思い込んでしまった原因」は分かりませんでした。

でも、私なりに「こうだからではないか?」

推察することがありました。


アリストテレスの『動物誌』を読んでいて感じたのは、

観察対象への敬意とか愛情とか感嘆する気持ちが

まったく感じられない…、ということです。


単行本下巻の一番最後「第10巻 第1章」

を読んだときに、それは決定づけられました。

タイトルはこちら、

「ヒトの不妊症の原因は子宮や月経にある」

字面のとおり、女性のせいにしているわけです。

最初の1~2行目に、

「原因は両方にあることもあり、
 どちらか一方にあることもある」

と書かれた以外はすべて、女性側に原因があるという論調で、

中盤(第五章)には、

「男の部分が不妊の原因ではないことを知るためには~、」と

わざわざ記されているほどです。

現代なら炎上では?


ファーブルの『昆虫記』にしろ、

さまざまなルポルタージュにしろ、

そこには対象への好奇心があり、

その好奇心の土台には敬意のようなものがある

と思っているけれど(私もそうです)、

アリストテレスの動物誌には、

少なくとも私が読んだ限りでは

対象者への敬意は伝わってきませんでした。


アリストテレスは歴史に名を残した哲学者ですが、

当時の社会思想の中に生きた一人の人間であり、

現代よりも男尊女卑が著しかった時代の人です。


これらを総合した私の考えとしては、

「女性の歯は男性よりも少ないと思い込んだ理由」は、

端的にいうと、

「女性を見下していたから」ではないでしょうか。

あなどっていたから、もっと詳しく知ろうとか、

本当にそうだろうかという疑問を持つ余地も

生まれなかったんじゃないか?

そしてまた、これが2000年もの間、

信じ続けられてしまったのは、

「あの人が言うんだからそれでいいだろう」

「そういう風に決まっている」という、

これまた思考の固定化によるものだったろうと思います。

ただし、理由は見下していたんじゃなくて、
権威や慣例にあらがわない、

いわば「見上げ過ぎていた」
という真逆の理由になるのかもしれません。
当の女性たちもそう思い込んでしまったという…。


短い旅でしたが、私がこの問題に執着したのは、

自分の中にも両方の芽があるからだろうし、

「あなたも気をつけてよ」と、

自分の中の自分が調べさせたのでしょう。

そんな気がします。


左脳と右脳が刺激された今回の小さな小さな旅。

(数カ月かかりましたが)

「歯数の罠」を忘れるなと、肝に銘じました。


最後に【おまけ】です。

私はこの小さな研究(ともいえない程度)により、

アリストテレスとは気が合わないとわかりましたが(笑)

それでも気づきをくれたお礼に彼の名言を紹介しておきます。

勇気は人間の第一の資質である。
なぜなら、他の資質の土台となる資質であるから。
自己とは自分にとって最良の友人である。
人は物事を繰り返す存在である。
従って、優秀さとは行動によって得られる物ではない。
習慣になっていなければならないのだ。

偉大な哲学者に物申す勇気がある(笑)

ジャーナリストの瀬戸川礼子でした。

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