ふと思い出しました。
「平気でせんといかん」。
これは、2009年に長崎で出会った
この道70年の芸妓・桃勇ねえさんの言葉。
各地にいる友人が着物姿で料亭「花月」に集い、
人生初で、いまのところ最後の
お茶遊びをしたときに聞かせてくれました。
12歳でこの世界に入った桃勇さんがおっしゃるには、
お座敷では歌も踊りも数えきれないほどの芸があり、
中にはちょっと色っぽいものもあると。
そんなとき、自分が恥ずかしがったり
思い切りが悪いと、かえっていやらしくなる。
だから、
「平気でせんといかん」
「何の気なしにやらんといかん」。
~ ~ ~
これって例えば、
会食の席でいきなり挨拶を頼まれたときなんかも同じだなと。
「いえいえ、そんな立場ではありません」
「どうぞほかの人に」
そんな遠慮は場が白けてしまう。
本当は苦手だとしても、
平気な顔でさっさと前に出て、
笑顔で、感謝や良いエピソードの一つでも話したほうが
スマートで、優しい。
実は私は、これがあんまり得意ではなく、
できればそっとしておいてほしい(笑)。
でも、それはたぶん「我」を張る行為なんだと思う。
こういう場面の受け止め方は、
きっと桃勇ねえさんが正しい。
平気じゃないけど、平気なふりをするのは
利己より利他が勝っていることだから。
~ ~ ~
桃勇ねえさんの小さな手と指は、
三味線の弾き過ぎで曲がっていて、
節くれだっていました。
その手を触らせてもらったとき、
さまざまなことを平気でできるようになるまで、
言い尽くせない出来事を見てきた手だ、
と感じました。
「平気でせんといかん」
「何の気なしにやらんといかん」
その境地にはまだまだなれていないけれど、
言葉は心に置いてあります。
経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子でした。