きれいごとでいこう!

経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子です。いい会社のいい話から私的なつぶやきまで、公私をつづります。

「自分の仕事は自分で責任を持ってやりなさい」 ~高橋忠之シェフからの教え~

 

4月13日のブログの続きです。

日をまたいでしまってすみません。

 

setogawa015.hatenablog.com


日本を代表するフレンチのシェフでいらした

髙橋忠之さんに叱られた話。

結論から言うと、こう叱っていただきました。

 

「あなたの仕事でしょう。

 自分の仕事は自分で責任を持ってやりなさい」


 

それは、私が独立した2000年ごろ、

三重県が主催する「観光プレスツアー」に参加した際のことです。

プレスツアーとは、地方自治体や施設などが、

メディアを現地に招待するツアーのことです。


私は、直前まで在籍していた『週刊ホテルレストラン』で

三重観光について記事を書くことが決まっており、

 

さらに欲を出して、

独立後も連載が続いた「ウーマンズ・ドリーム」の

インタビューもしたいと考えました。

 

「ウーマンズ・ドリーム」は私の企画で、

ホテルウーマンに光を当てたインタビュー記事です。


そのことをプレスツアーの担当者に相談したところ、

ぜひ三重のホテルウーマンを取り上げてくださいと、

志摩観光ホテルの厨房で働く女性にインタビューを

させていただくことになりました。

 

ホテルの厨房に女性がいるのは珍しいことでした。

(今もそうかもしれません)。

そうと決まれば、あとはアポ取りです。

 

当然、私がホテルに連絡を取るつもりでしたが、

ツアー担当者は「担当の私が取ります」と言うのです。

 

ホテル広報と女性と私の間に入って調整するのは

かなり面倒になると思いますよ、とお伝えしても、

「私に任せてください」と言われます。

 

ツアー担当者として顔を立ててほしいんだな?

私はそう考え、「ではお願いします」とお任せしました。


その後、インタビューの日時設定は宙ぶらりんで、

電話で問い合わせても、回答がありません。

あっという間にツアー当日になりました。

ツアーは3日間です。


現地に着くと、そのツアー担当者から

インタビューは明日の何時です、と言われました。

 

ところが、翌日、志摩観光ホテルに向かうと、

憮然とした様子の高橋総料理長が現れ、

うちのスタッフにインタビューを受けさせることは

できないと言うのです。

 

理由を伺うと、

昨日・今日で急にインタビューを依頼されたと。

突然、スタッフを一人取られることが

厨房にどういう影響を与えるか分かっていますか、と。


まったくの正論です。

シェフが100%正しい。

有名な総料理長です。

白い立派なユニフォーム姿です。

その方が、目の前で怒っていらっしゃる。

 

申し訳ないという気持ちよりも、

正直、……怖い。


でも、連載に穴をあけることはできません。

ツアー中にインタビューさせてもらわないと

締め切りに間に合わない。

それに、登場いただくはずの女性に申し訳ない。

失礼なことをした誤解も解きたい。


私は腹に力を入れて、恥も外聞もなく言い訳しました。

プレスツアーの担当者がアポを取ると言ったので、

顔を立てるつもりで任せてしまったこと、

失礼なやり方で本当にごめんなさいということ、

厨房の仕事が重要なのは理解しているということ、

料理界で活躍する女性をぜひ紹介させてほしいということ、

明日までいるので、時間をいただけませんかということ。



するとシェフは言いました。

明日のほかの取材はどうするんですか。

 

私は、そこはすでに誌面で取り上げたので

今回の取材はキャンセルしても大丈夫ですと言いました。

本当のことです。

 

すると、シェフは安心してくださったようで、

明日午後、女性スタッフのインタビューを承諾してくれました。

 

ほかの取材先が、取材される機会をなくすのではないか

ということまで心配されて、さすがだなと思いました。

 

そして最後に、私の目を見て、

冒頭の言葉を言ってくださいました。

 

「あなたの仕事でしょう。

自分の仕事は、自分で責任を持ってやりなさい」

 

 翌日の女性スタッフインタビューはいい時間になりました。

 

 

以来、シェフの教えを極力、守ってきたつもりです。

 

独立してちょうど一人になっていたから、

自分の仕事は(誰にも任せず)自分で責任を持つ環境にあり、

なおさら「自分でやる」ことが自然になりました。

 

本当にありがたいシェフからの言葉でした。

そして、20年が過ぎた今、シェフの教えを胸に持ちつつ、

 

「自分の仕事を『仲間と共に』責任を持ってやる」

という大切さも感じています。

 

年と共に、だんだん叱ってもらえなくなり、

あのときの叱ってもらえた有り難さを感じます。

 

高橋シェフありがとうございました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。


あのとき取材を受けてくれた女性社員さんは
樋口宏江さん。聡明な方だなと思いました。
現在は総料理長になられています。

経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子でした。