きれいごとでいこう!

経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子です。いい会社のいい話から私的なつぶやきまで、公私をつづります。

全焼しても立ち上がる「べにやの希望の庭」


【べにやの希望の庭】

2018年5月24日、
「べにや」(福井あわら温泉)の
女将・奥村智代さんを訪ねました。


5月5日に火災で全焼され、
被害者も飛び火もなかったのが不幸中の幸いでしたが
とても気がかりだったのです。

 

ご迷惑かな…とも思いましたが、
再建の意向があると県内の知り合いから伺っていたので
智代さんにも登場いただいている
拙著『女将さんのこころ2』を再び手にしていただけたら
と、持参しました。

本書は1冊に旅館の女将さん55人を紹介していて、
智代さんの想いと夢も書かせていただいているのです。

 

~  ~  ~


下記、快諾いただきましたので、
べにやさんの当時と今をお知らせします。


今回のお見舞いは突然の訪問となってしまったので
会えなければ様子だけ拝見して帰ろうと思っていましたが、
タクシーで着いた道に、
ちょうど社長の奥村隆司さんと女将の智代さんが立っていらして
幸運にもすぐお会いすることができました。

~  ~  ~


登録有形文化財だった木造の建物は
まだ撤去する段階ではなく、
真っ黒な姿で、低く横たわっていました。

趣のある素敵な建物でした。

今の姿は、目を背けたいもののはずですが、
お二人は現実を受け止められ
毎日、現場を見に来られているのでした。


火災の最中も見届けたそうです。
「見ない方がいい」と言ってくれる人はいたけれど、
「そういうわけにはいかない」
「どうか止まってほしい」と願いながら、
燃えゆく館を、ふらふらになりながらも
智代さんは見続けました。

隆司さんは外出先で連絡を受け、
急いで駆け付けられました。


あわら温泉女将会のみなさんは、
ただちに駆け付けてくれ、
智代さんの体を支えてくれたそうです。


私が驚いたのは、
スマホを持たずに避難した智代さんに代わり、
仲間の女将さんたちが、
東京で暮らす智代さんのお子さんたちに
状況を知らせてくれたというのです。

「全員無事だから、しっかり気を持って聞いてね」と。
子どもの連絡先も伝え合っているのです。
ここまでの仲はなかなか聞きません。

私が知る限り、あわら温泉女将の会は
日本一の団結力を育まれていると思います。
以前、旅行新聞の記事にも書かせていただきました。


~  ~  ~


さて、火災から3週間になろうとしている今、
毎日、現場に来て、
改めて気づかせてもらったことがたくさんあると
智代さんはおっしゃいます。

がんばりましょうと言ってくれる社員と家族、
女将さん仲間、
お客さまや県内外から応援してくれるたくさんの方々、
温泉、自然、福井の土地と食――

建物は失ったけれど、
「自分たちにはかけがえのない財産がたくさんある。
ここが原点だ」
と。



敷地の中に入れてもらって驚きました。
建物の奥にある庭は、こんなに青々と残っていたのです。

画像























以前、取材で伺った際、
「初めて、嫁ぎ先のべにやに来たとき、
『どんなことがあっても、この庭を見れば私はがんばれる』
と思ったんです」と、言っていた智代さん。

火災当初は、
燃えてしまった建物ばかり目について辛かったと言われます。
けれど、数日後に裏庭に足を踏み入れたとき、
しっかり根を張った木々のたくましさ、
なめらかに広がる苔の美しさに目を見張った、と智代さん。

すぐそばにはご先祖さまの祠がありました。

画像























働いているときは時間に追われ、
裏側から庭を見ることはなかったと。

しかし、べにやと共に年月を重ねてきた庭はいま、
無言のメッセージによって、
心の中に「できる」という気持ちを芽吹かせてくれたそうです。


全身が茶色くなり、枯れたように見えた松は、
3週間足らずであちらこちらに緑の葉を伸ばしーー、

画像









 

 

 

 



火災の後から、励ますかのように咲き始めたツツジは
緑の中でピンクの差し色を見せてくれています。
画像













 

 

 



黒い建物と息づく緑。
何とも言えないコントラストの中、
智代さんから語られる感謝の言葉と、
献身的な木々の姿に涙があふれました。


智代さんは語ります。
「私たちは6代目なのですが、
実は火災のあった5月5日は、
この建物を建てた4代目の命日でした。
そんな日に建物を守れず申し訳ありません
という気持ちでいっぱいでしたし、
私たちの代は何としてでもこれを守っていくつもりでした。
火災はあってはならないことでしたし、
みなさまにご迷惑をおかけしてしまったことを痛感しています。
でもこうなった今、
これはご先祖様が、
もう古い建物にこだわらずに
新しいべにやを作るときだよと
言ってくれているのではないかと、主人と話しています。

前から、お客さまを思えばエレベーターもつけたいし、
改善したいところはいろいろありました。
古い建物のまま、
次の世代に継いでいいのかという不安もありました。
ありがたいことに、
ご近所のみなさまがお許しくださいました。
2年以内には新しいべにやを、と考えています」


現在は、近くのご自宅で18時には夕食となり
家族と社員が一緒に食卓を囲んでいるそうです。
火災の前にはありえなかった時間であり、
再建したら作りにくい時間でもあります。

貴重な夕食では、「再建する」を共通目標に、
具体的にどうしていきたいか
という未来の話が出るといいます。


通常の火災保険に入られていたとはいえ
登録文化財の被災に特別な処置はなく、
すべて自己責任となるそうです。
これから考えることは山積みでしょう。


けれど、
べにやさんには前述したたくさんの無形資産と、
「運命や想いを繋いでいく」(ご主人で社長の隆司さん談)
というご本人たちの強い想いがあります。


希望の庭にふさわしい
「新しいべにや」の鼓動。
それが小さく聞こえてくるかのようでした。


経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子でした。

 
おもてなしの原点 女将さんのこころ その二
旅行新聞新社
2015-07-07
瀬戸川 礼子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by おもてなしの原点 女将さんのこころ その二 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル
 

 

おもてなしの原点 女将さんのこころ その一
旅行新聞新社
2014-07-07
瀬戸川 礼子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by おもてなしの原点 女将さんのこころ その一 の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル
 

 

「顧客満足」の失敗学 社員満足がCSを実現する!
同友館
瀬戸川 礼子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 「顧客満足」の失敗学 社員満足がCSを実現する! の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル
 

 

顧客満足を生み出す仕組み―この18社に見つけた!
同友館
瀬戸川 礼子

amazon.co.jpで買う
Amazonアソシエイト by 顧客満足を生み出す仕組み―この18社に見つけた! の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル