今日、銀座を歩いていたら、修行中のお坊さんが、
雑踏の中で托鉢(たくはつ)をしていました。
袈裟(けさ)を着て、笠をかぶり、
左手にお布施をいただくための鉢、
右手に鈴を持って立っている、
ときどき見る光景です。
鈴は鳴らさず、
小さな声で何か唱えているみたいでした。
いつもは素通りしてしまうのに、
なんとなく気になりました。
近くのビルに隠れてお財布を覗いてみたところ、
お札は1万円札と5千円札、
小銭は100円玉が2枚だけ。
千円札が入っているのを見たことがあるけれど、
相場が分かりません。
「少なくてすみません」。
戻って、200円を鉢に入れました。
お札を入れてあげることはできませんでした。
正午を回っていましたが、鉢はまだ空っぽでした。
そそくさと立ち去る私の背中に、
控えめな鈴の音が響いてきました。
その音が本当にきれいな澄んだ音だったんです。
振り返りませんでしたが、
こちらのほうに身体を向けて振ってくれて
いるような気がしました。
たいして足しにならない200円だったのに、
気持ちを組んでくださったのでしょう、
「あの人に幸せがありますように」
という祈りが聞こえた気がしました。
静かにチリーン、チリーンと、
鈴の音は聞こえなくなるまで続きました。
特に宗教心を持たない私も、
素朴な優しさに触れ、有り難さがしみて、
思わず目がウサギに。
言葉を仕事にしているから
言葉の力を信じていますが、
ときに、言葉よりももっと
人を幸せにするものがあることを改めて感じた
今日のひとこまでした。
(クマじゃないよウサギだヨー)
瀬戸川礼子でした。