きれいごとでいこう!

経営ジャーナリスト・中小企業診断士の瀬戸川礼子です。いい会社のいい話から私的なつぶやきまで、公私をつづります。

チェンジメーカー ~真っ暗闇のレストラン~

 

目が見えない状態になって、手探りで食事を楽しむ。

そんな真っ暗闇のレストランがスイスにあると知りました。

NHKテレビ「CHANGE MAKER」の再放送で紹介されていました。

http://www.nhk.or.jp/tamago/program/20081010_doc.html

日経BPにも詳しく紹介されています。

http://www.nikkeibp.co.jp/style/biz/feature/world/070314_blindekuh/

 

 

北京で同じようなレストランが開店したのは知っていたのですが、

スイスのほうが元祖のようで、このコンセプトが資本関係なく諸外国に

広がっているようです。

 

スイスの元祖・暗闇レストラン「blindekuh」の創業者は、

かつてデザイナーとして活躍していたステファン・ツアッパーさん。

ツアッパーさんによると、人は視覚を失うと五感が研ぎ澄まされて、

匂いや味に敏感になるとのことです。

 

そう言われてみると、確かに暗闇は五感が敏感になる気がします。

食事の経験はありませんが、たとえば暗闇で音楽を聴くと、

明るいところで聞くときよりも体に沁み渡るような感覚があります。

会話も同じで、明るい所よりも暗い所のほうが相手の声や声のトーン

を普段よりも意識するようになります。

 

さらにツアッパーさんは暗闇で食事することについて、

「わくわく感があるので会話も弾みますよ。初デートはここでどうぞ」と

アピールしていました。

 

いいですね。楽しそうです。

レストランは、料理の色や盛り付け、お皿、内装、景色、相手の表情など、

目で楽しむ要素がたくさんある場所ではありますが、

たまには「blindekuh」のようなレストランも面白いと思います。

 

さて、暗闇レストラン「blindekuh」はこのように本能を刺激するユニークな

場所なのですが、魅力はこれだけではないのです。

 

 

実は、この店の接客スタッフは全員、目が見えない方なのです。

レストラン内の導線、メニュー、オーダーをすべて頭に入れて働いています。

その一人が言いました。

「ここでは、目の見える人を私たちが助けてあげることができるのです」と。

なるほど確かに、真っ暗闇なら、目が見える・見えないは関係ありません。

なんて素敵なアイデア! この逆転の発想には脱帽です。

そうそう浮かばないと思います。

 

ではなぜ、創業者のツアッパーさんはこのアイデアを思いつけたのでしょう。

 

それは、ツアッパーさん自身もまた、視覚障害者だからです。

デザイナーとして活躍している最中、彼は糖尿病で視力を失ってしまいます。

ひきこもる日々ーー。

けれども、ツアッパーさんはくじけませんでした。

心の暗闇を抜け出して、喜びのあふれる明るい暗闇へと移り住んだのです。

 

彼は言いました。

「寄付をもらって成り立つようなレストランにはしたくなかった」と。

 

暗闇レストランは、彼自身、来店客、働くスタッフと、全員を幸せにしています。

CS(顧客満足)もES(社員満足)も両方、高い職場です。

障害者の雇用確保という課題にも大きく貢献しています。

 

 

ちなみに、日本には障害者の法定雇用率というものがあって、

これは、社員数56人以上の企業は、社員の1.8%を障害者にしましょうと

推進するものなのですが、現実はほとんど守られていません。

それを考えるとなおさら、ツアッパーさんのアイデアが素晴らしく思えます。

 

暗闇レストランは、ただいたずらに暗闇にしているわけじゃない。

確固たる信念と意義を持って暗闇にしている。

その点が来店客の満足をより高めているようにも思います。

 

番組タイトルでもあるCHANGE MAKER (チェンジメーカー)は、

一般的に次のような意味があります。

 

「チェンジメーカーとは、貧困、環境、紛争、差別など、

 21世紀になっても、相変わらず世界に山積しつづける問題を、

 あっと驚くようなアイデアで解決する起業家たちを指す」

 

 

チェンジメーカーのつくった暗闇レストラン。

体験しに一度行ってみたいものです。